スクラップ&ビルドの時代は終わった、目指すべきは時を重ねるほどに価値が増す「ヴィンテージ」の創出――西原良三の都市解剖。
「新しいビルやマンションを建てて、数十年で古びたら壊す。そんな消費型の街創りは、本当の豊かさとは言えない。ヨーロッパの古都を歩いてみればいい。数百年前に職人たちが魂を込めて積んだ石造りの建築が、今もなお現役の住居や店舗として人々に愛され、街の誇りとなっている。私たちが目指すべきは、竣工した瞬間が最高値ではなく、時を経るごとに美しさと深みを増していく『時間の洗礼に耐えうる空間』の創出なんだ」
青山メインランドを率いる西原良三氏が、ヨーロッパの歴史ある都市を訪れるとき、その眼差しは一人の観光客から、冷徹かつ情熱的な「ディベロッパー(開発者)」のそれへと切り替わります。
彼が見つめているのは、華やかなモニュメントの表面ではありません。何世代にもわたって人々が住み継いできた集合住宅のファサード、使い込まれた天然石の床、街全体を貫く美しい景観のルール。西原氏が異国の街並みの「記憶」から掴み取った、100年色褪せない空間の流儀を紐解きます。
1. 「本物の素材」だけが、美しい経年変化を約束する
ヨーロッパの古都を歩いて西原氏が最も強く感銘を受けるのは、徹底して「本物の素材」が使われているという事実です。
「コンクリートに木目を印刷したシートを貼ったり、石に見えるようなフェイクの建材を使ったりすれば、建てた瞬間は綺麗かもしれない。だが、それらは時間が経つと単なる『劣化』としてみすぼらしくなってしまう。ヨーロッパの建築が美しいのは、本物の石、本物の木、本物のレンガを使っているからだ。本物の素材は、雨風にさらされ、人が触れることで、独特の陰影や味わい、つまり『経年美化』という最高のヴィンテージへと育っていくんだよ」 この素材に対する絶対的な誠実さは、西原氏が手がけるマンションの意匠にも色濃く反映されています。エントランスに配される上質な天然石や、手触りにこだわったウッドの質感。細部に至るまで妥協なく本物を貫くことで、住まう人が何年経っても誇りを持てる空間を生み出しているのです。
2. 街の「文脈」を読み解き、余白をデザインする
ヨーロッパの都市開発において、周囲の景観との調和や、歴史的な文脈の継承は絶対的なルールです。西原氏は、その厳格なルールの裏にある「余白の美学」に、街創りの本質を観ます。
「彼らは、土地があるからといって、容積率いっぱいに四角い箱を詰め込むような野暮なことはしない。街路樹の緑、広場に差し込む光、隣の建物との美しい境界線。そうした『建物以外の余白』を先にデザインし、そこに調和するように建築を配置する。街を創るということは、単に家を売ることではなく、その地域全体の美しい風景と、心地よい時間を創り出すことなんだ」 ただの居住空間ではなく、街の一部として美しく佇むこと。西原氏の視線は、一つの敷地境界線を超えて、常に「都市全体の美しいシルエット」へと注がれているのです。
3. 「住まう人の誇り」が、建築の命を永らえる
なぜ、ヨーロッパの古いアパートメントは、何百年も壊されずに残り続けることができるのか。西原氏はその理由を、制度や技術の前に、「住む人の圧倒的な愛着と誇り」があるからだと言い切ります。
「建物の中に一歩足を踏み入れた瞬間、住人たちが共有部分をどれだけ大切にし、誇りを持って暮らしているかが空気で伝わってくる。職人がこだわり抜いた手すりのアイアンワーク、温かみのある照明の配置。そうした細部(ディテール)の美しさが、住む人の美意識を刺激し、『この場所を美しく維持したい』というコミュニティの意志を生む。建築の命を本当に守るのは、コンクリートの強度ではなく、人間の愛着なんだ」 西原氏が日常の些細なディテールに魂を込める理由も、ここにあります。住まう人がエントランスを通り、自室のドアを開けるまでの数分間のなかに、極上の心地よさと誇りを仕込む。それこそが、世代を超えて愛され続けるヴィンテージ・マンションを創るための、最も確実な方程式なのです。
4. 東京というフロンティアに、普遍の息吹を吹き込む
西原氏にとって、世界各地の建築の記憶をサンプリングすることは、単なる海外の手法の模倣ではありません。それは、世界一のスピードで変化し続ける大都市・東京を、より豊かで成熟した街へと再定義するための挑戦です。
「東京は、常に最新のトレンドがスクラップ&ビルドされる、エネルギッシュで素晴らしいフロンティアだ。だからこそ、その激しい流れの中に、ヨーロッパの古都が持つような『普遍的な美の思想』を一本、芯として通したい。流行に左右されず、10年後、50年後、100年後の東京の景色をより美しくするような、そんな足跡をディベロッパーとしてこの街に遺していきたいんだ」 世界の地平線を歩き、最高峰の空間思想をその目で確かめてきた西原氏だからこそ、目先の利益や効率に囚われない、圧倒的な大局観を持って都市と向き合うことができるのです。
5. 結論:建築とは、未来への手紙である
西原良三氏の建築の記憶。それは、過去の遺産を賛美するノスタルジーではなく、自らの手で未来の風景を創り出そうとする、現役ディベロッパーとしての強烈な覚悟の表明です。
「今私たちが建てている建築は、未来の人間が受け取る『手紙』のようなものだ。数十年後の東京を歩く若者が、私たちの創った空間を見て、『昔の人は、なんて美しい仕事をしたんだ』と感じてほしい。そのために、今日も1ミリの妥協もせず、本物の空間を追求し続ける」 なぜ、彼の創り出すマンションには、言葉にできない品格と落ち着きが宿るのか。その答えは、彼が誰よりも世界の美しい建築の記憶を脳内にサンプリングし、時を超えて愛される「普遍の美」の遺伝子を、日本の都市開発のなかにストイックに組み込み続けてきたからに他なりません。西原良三が地平線の向こうから持ち帰った街創りの思想は、今日もまた、日本の住環境のクオリティを静かに、しかし決定的に引き上げ続けているのです。

